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フリー・ジャズの旗手からバラードの達人へ;Pharoah Sanders・Welcome To Love [音源発掘]

長期の天気予報では、猛暑の日が続くと言われた今年の夏、その始めは暑い日としのぎやすい日が入り混じってやって来るという気候変化の激しい日々が続いたと思ったら、8月に入り突然様変わりの猛暑の日々の襲来。

前半の寒暖差の激しい日々で一時体調を崩してしまった私、何とか回復したものの今度はこの暑さ、病み上がりの老体の身には少々堪えている昨今なのですが.....。

とか何とか言っても、まだまだ家でじっと養生できるような隠居の身分でもない私。

そこで、朝はこの日の活力の源注入のため、メタルを聴きながら出勤、仕事を終えた退社の時刻には、一日の心と体の疲れ癒すため、潤いのあるジャズに浸りながら帰路に着くことが日課にしているのですが、その中で身に心に大きな癒しを貰っているのが、この作品。

welcome to love pharoah.jpg


テナー・サックス奏者 Pharoah Sandersの1990年の作品”Welcome To Love”。

全曲バラード曲で構成されたこの作品、その1曲1曲がピュアでナチュラル感に溢れていることから、心を現実の世界から癒しの世界に導き浄化してくれるように思え、最近よく聴いているもの、ということで今回はこの”Welcome To Love”を取り上げご紹介することにしたいと思います。

しかし、演奏者のPharoah Sandersというアーティスト、名盤紹介書などで取り扱われてことも稀であり、CDショップを訪れても、彼の作品に出会うことは極めて稀であるため、この名前に馴染みがないという方も多いのではと思います。

そのPharoah Sanders、1965年フリー・ジャズの道を歩み始めた、巨匠 John Coltraneのコンボに参加、Coltraneの存命中は、Coltraneが父でSandersがその子供と称され、そして1967年彼の死後は、その後継者として注目されたほどのアーティストなのです。

しかしながらその存在、70年代になってフリー・ジャズが衰退、新しいジャズのスタイルとしてフュージョンが台頭してくると、彼の名をマスコミで目にすることは少なくなり、そこに1965年までColtraneのカルテットのピアニストとして在籍したMcCoy Tynerが”Sahara”をはじめとした意欲的な作品を発表すると、後継者としての座までもが彼の元からMcCoyの元へと、その評価が移ってしまったことで、その影までもが薄くなってしまったようなのです。

そして、それと同時に、レコード・ショップにて彼の作品を見ることも稀となってしまったのですが、事実、当時私も、友人に聴かせてもらった彼の1969年の代表作”Karma”を購入しようと、今のようにネット通販のない時代、レコード店を一つ一つ歩き回り探したのですけど、とうとう見つけることが出来ず、やっとのことで見つけことが出来たのは、それから15年後のことだったという体験があります。

もっともこの”Karma”を探した原因、それは、Pharoahを聴きたかったわけでなく、当時SANTANAに参加していたLeon Thomasのヴォーカルを気に入りそれを聴きたかったためであり、Pharoahのサックスについては、ボソボソと鳴るか、ただひたすら咆哮するばかりで、なんやら得体も知れない味気の片鱗もないものようにしか思えず、その時は、全く評価してはいなかったのです。


ところが、それから5年後のこと、とある日に雑誌のレビューで知った”Welcome To Love”というこの作品、収録曲を見ればバラード曲が並び、その評価の方もかなり高い由。

Pharoahとほぼ同時期に登場し、Coltraneの影響をダイレクトに受けたフリー・ジャズの演奏で、名を馳せていた同じくテナー・サックス奏者のArchie Sheppの70年代後半ステージを見たことのあった私は、Sheppがフリーから転じ、スピリチュアルなスタイルへと変化、その演奏に好感を持っていたことから、さらにSheppより以上にColtraneと身近な場所で共に過ごし、かつ啓蒙を受けたPharoahのこと、もしかすると、Shepp以上の良質な変化を遂げているかもしれないと考え、早速この作品を手に入れ聴くことにしたのです。

果たしてその結果は、
それではその演奏、この辺で、皆さんにもお聴きいただくことにいたしましょう。











聴いていただいた曲は、"My One and Only Love"
この曲、Coltraneも男性ヴォーカリストJohnny Hartmanとの1963年の共演作品"John Coltrane & Johnny Hartman"で演奏しているのですが、ここでのPharoah、Coltraneの如く朗々とそのメロディを歌い上げその音に埋没していく姿が見えてきます。
そして、さらによく聴き比べてみると、どこか神経質な面持ちを感じるColtraneの演奏に対し、Pharoahは、さらに野太く艶やかさのある豊かなトーンで、そのメロディの一節一節を丹念に紡ぎ出し奏でていることに気付かされます。

そこから感じる彼の大きな包容力、Coltraneの下にいた時代は、荒れ狂う野獣の如く咆哮していたPharoahの大きな変貌ぶり驚きさえ覚えずにいられません。

しかし、1940年生まれのPharoah、Coltraneの下に来た時は、まだ25歳の新進プレヤーだったことを考えてみれば、その時は、Coltraneから受けた啓示をいかに自分の音楽に生かそうか格闘していた時期だろうとも思われ、それから25年経った50歳の時のこの作品では、それらを自らの中に完全に消化しつくし、自己のサウンドとして確立した、その成果がこの演奏なのだと、私自身納得するに至ったのです。


さて、そこで今度は、そのColtraneの演奏との比較試聴をしていただくことにしようと思うのですが、曲は、Coltraneのあの大名盤”Ballads”にも収められていた”You Don't Know What Love Is”を、まずはColtraneの演奏から聴いてみることにしたいと思います。







続いては、Pharoahの演奏です。



似ているようで、一味も二味も違う。
70年代、Coltraneの後継者との名声をMcCoyに奪われてしまったPharoah、しかし、それから20年を経たこの演奏を聴くと、やはり彼こそがColtraneの後継者だったのだと思えてきます。

そしてこの演奏。さらに特筆すべきは、このPharoahをサポートするリズム陣の素晴らしさ。

後に歴史に残る黄金のカルテット言われたColtraneのカルテットを支えた、McCoy Tyner(p),Jimmy Garrison(b),Elvin Jones’ds)からなるリズム陣、時にはColtraneサックスすら食ってしまうElvinの ド迫力に満点のドラマスティックなドラムの響きこそありませんが、それに対して慎ましやかではあるも微妙な風の揺らぎを感じさせるプレーで、Pharoahのサックスを盛り立ててそのサウンドに敬虔な厳かさを添えている、そうした様子が窺い取れるように感じます。

中でも秀逸なのが William Henderson のピアノ!

一つ一つの音の輪郭がくっきりと浮びあがる見える美しい音色の気泡で、Pharoahのサックスを包みこみ、ややもすれば朴訥にも聴こえてしまうそのサウンドに、優しい潤いを与えているようにも聴こえてくるのです。

私も、「いや、こんなピアニストいたのだ!!」と感じ入り、早速、彼の素性をいろいろと調べてみたのですけど、

結局、詳しいことは分からず、 William Henderson というピアニスト、分かったのは、この作品から3年ほど前の作品”Oh Lord, Let Me Do No Wrong ”から前任の John Hicks (この人のピアノもなかなかいいのですけど)に変わってPharoahのコンボに参加したアーティストで、それ以降の彼のレコーディングの相方としてその名があること、2007年のPharoahとのデュオLiveにもその雄姿を見せていた等から、どうやら、Pharoah一番のお気に入りピアニストのようだということなのです。

それにしても、サックス奏者とそれを支えるピア二ストのこうした関係、そういえば、晩年その伴侶を得て、そのもてる力を後世に残したStan GetztとKenny Barron 、そして同じくArt Pepper とGeorge Cables、 その二人の関係と同様、現在、御年75歳のPharoahも、60歳を迎えるその直前に至り、自己のサウンドを理解し最大限のその力を発揮するための相方として、William Hendersonにそのすべてを託しているのではと思えてくるのです。


それでは、最後にPharoahとその伴侶Henderson、その阿吽の呼吸から生み出される至宝のバラードの演奏をもう一曲。
曲は”I Want to Talk About You”を、聴くことにしたいと思います。



いかがでしたか、PharoahとHendersonの奏でるバラード演奏。
ここでのPharoah、ソプラノ・サックスに持ち替えての演奏でしたが、さらに神々しさまで感じられる、天国に行ってしまたColtraneもこれを聴き「息子よ、私の意思を継いだのはやはりお前だったのだな。」と、優しく微笑みかけている姿が目に浮かんできます。


その後のこの二人、1992年にColtrane作曲のバラードをフューチュアーした演奏集である "Crescent With Love(邦題:愛のクレッセント)"とバラード曲の名曲演奏集である"Ballads With Love(邦題:愛のバラード)"を発表、そして2003年には、初期の名作”Karma”に収めらていたメイン曲の”The Creator Has A Master Plan ”を再演奏と、ソウル・シンガー Whitney Houstonの1985年のヒット曲”Greatest Love Of All”を収めた、先の再演奏の曲名を冠した意欲作を発表しているのですが、 特にPharoahの下の他でしか聴けないHendersonのピアノと合わせ、私としてもこれからは、Pharoahの音楽を積極的に聴いて、彼らの創造する音世界の源へ迫ってみたいと思っています。



Track listing
1."You Don't Know What Love Is" (Gene DePaul, Don Raye)
2."The Nearness of You" (Hoagy Carmichael, Ned Washington)
3."My One and Only Love" (Robert Mellin, Guy Wood)
4."I Want to Talk About You" (Billy Eckstine)
5."Soul Eyes" (Mal Waldron)
6."Nancy (With the Laughing Face)" (Jimmy Van Heusen, Phil Silvers)
7."Polka Dots and Moonbeams" (Johnny Burke, Van Heusen)
8."Say It (Over and Over Again)" (Frank Loesser, Jimmy McHugh)
9."Lament" (J. J. Johnson)
10."The Bird Song" (Pharoah Sanders)
11."Moonlight in Vermont" (John Blackburn, Karl Suessdorf)   Bonus track on Japanese CD

Personnel
Pharoah Sanders - tenor saxophone, soprano saxophone
William Henderson - piano
Stafford James - bass
Eccleston W. Wainwright Jr. - drums

Recorded
July 17, 18 & 19, 1990 at Studio Gimmick, Yerres, France
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yuzman1953

日頃ジャズを聞くことがないので、勉強になりました。
”You Don't Know What Love Is”はPharoahの演奏の方が哀愁を感じ、癒されました。

by yuzman1953 (2016-08-24 11:52) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

yuzman1953さん

コメント有難うございます。
今回選んだアーティスト、日本では評価は今一つだったことから忘れかけられてしまっているうえに、知ってる人でも好き嫌いが分かれる若い時の演奏が有名な人ので、今回はコメントひとつも無になるかもな思っていたところのメッセージ、本当に嬉しく思います。

頂いたコメントから思ったこと、今回取り上げたアーティストは、ジャズに馴染みのない方の方が素直に聴けるのかもしれないということ。

というのも、You Don't Know What Love Is”、おそらくジャズにうるさい人だったら、おそらくColtraneの方に軍配を上げるはずなのだけど、初めて聴いた人には、逆にその+の力となっている後ろのドラムが煩く感じてしまったはず。

まあ難しいは抜きににして、自分の心に染みいる音楽を楽しむこと、yuzmanのコメントから、その大切さ、あらためて考えさせられてしまいました。




by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2016-08-24 20:53) 

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